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名古屋家庭裁判所 平成7年(家イ)502号 審判

申立人 山本洋平

相手方 コンスタンティーノマモル

相手方法定代理人親権者母

コンスタンティーノ イザベル エミーリア ナターリア

主文

相手方が申立人の嫡出子であることを否認する。

理由

1  平成7年4月19日当庁で開かれた調停期日において、当事者間に主文同旨の審判を受けることについて合意が成立し、その原因となる事実についても争いがない。

2  本件記録によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉  申立人は肩書住所地にあるマンションの10階に居住し、相手方の母コンスタンティーノ イザベル エミーリア ナターリア(以下「ナターリア」という)は、同じマンションの7階に居住していたものであるが、平成4年9月頃知り合って、二人は婚姻をすることとなり、平成5年1月29日に婚姻届出をなして夫婦となった。しかし、婚姻の実態は、単なる友達付き合いで、夫婦関係もなく、婚姻届1週間後には、申立人とナターリアとは殆ど顔を合わすこともなくなり、平成5年10月12日に至り協議離婚届を提出した。申立人は、相手方から親子関係不存在確認申立事件(当庁、平成7年(家イ)第×××号)を提起されたことにより、平成7年2月下旬頃に至り、初めて相手方の出産を知った。そして、平成7年3月9日、本件申立をなした。

〈2〉  ナターリアは、申立人との婚姻当時すでに鈴木太郎と肉体関係があり、婚姻後も関係が続き、平成5年2月頃から二人は同棲した。ナターリアは、同年5月頃まで本国から持参したピルを服用していたが、鈴木の子供が欲しいと思うようになって、同年6月頃からその服用を止めた。ナターリアは、同年7月5日頃に最終月経が始まり、同月25日に鈴木と関係を持って、相手方を懐胎し、平成6年4月9日に分娩した。

3  国際裁判管轄権について

本件は、申立人が日本国籍であり、相手方の母であるナターリアがコロンビア国籍であるから、渉外事件として、国際裁判管轄権が問題となるが、わが国にはこの点に関する成文法はないので条理によって解釈することとなるところ、申立人、相手方共に日本国内に住所を有し、また、当事者双方は、わが国の裁判所で審理、判断するについて、何ら異議を止めず、本件調停に出席し、上記合意をしているのであるから、日本の裁判所に管轄権があると認められる。

4  準拠法等について

(1)  本件は、相手方の母であるナターリアが相手方を懐胎当時、申立人と婚姻関係にあったものであるから、申立人(父)と相手方(子)との間の親子関係の存否は嫡出子親子関係の成否が問題となる。そうすると、法例17条により、申立人の本国法である日本法と相手方の母の本国法であるコロンビア法とが準拠法となる。なお、コロンビア共和国の渉外規定による反致の有無について検討するに、コロンビア人の身分、能力、家族法については、外国に居るコロンビア人にもコロンビア法が適用されているから(Bergman/Ferid Internationales Ehe-und Kindschaftsrecht 6. Auflage Kolumbien, 6)、本件が日本法に反致されることはない。

(2)  そこで、まず日本民法の適用についてみるに、同法772条1、2項によれば、上記2で認定した本件事実関係の下では、相手方は申立人の嫡出子と推定されるから、これを否認するためには、同法774条、775条による嫡出否認の訴えによることとなるところ、申立人の本件申立は相手方の出生を知った時から1年以内になされたものである(同法777条)。

(3)  他方、コロンビア婚姻・離婚法213条によれば、父母の婚姻中に懐胎した子は嫡出子とされ、同法214条は「婚姻後引き続き180日を経過した後出生した子は、婚姻中の懐胎と考え、その夫を父とする。」と規定する。したがって、本件上記事実関係の下では、コロンビア法によっても、相手方は申立人の嫡出子となるものである。ところで、同法215条は「妻の姦通が、たとえ懐胎可能期間に行われたものであっても、夫はその事実のみによってその子に対する嫡出子としての承認を拒むことができない。但し、その期間中に姦通したことが証明されれば、夫がその子の父でないことを証明するに足るその他の如何なる事実についてもこれを証拠として認めることができる。」と規定しているので、申立人は、相手方に対し、嫡出子否認の訴を提起することができるものである。ところで、同法217条によれば、その訴の提起期間は原則として「この出産を知った日から60日以内」であるが、上記認定事実によれば、本件申立は、申立人が相手方の出産を知ってから60日以内になされたものである。

(4)  以上のとおり、本件は、父の本国法である日本法、母の本国法であるコロンビア法の双方によりそれぞれ嫡出子の推定がなされるものであるところ、日本法、コロンビア法双方によってそれぞれ嫡出子否認をすることができるものである。

5  むすび

上記2で認定した事実によると、相手方は申立人の子でないことが明らかであるから、当裁判所は、本件調停委員会を組織する調停委員○○○○○、同○○○○○の意見を聴いたうえ、上記合意を相当と認め、家事審判法23条により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 大津卓也)

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